[書評以前] 蟲師 第五巻
そりゃあ たいそう悪い 冗談だまさに待望の、と言えよう、漆原友紀氏の蟲師 第五巻。今度紡がれし妖精譚は沖つ宮、眼福眼禍、山抱く衣、篝野行、暁の蛇の五つ。それらのうち、個人的に強く印象に残るのは沖つ宮だ。
或る小島を訪れたギンコ、"生みなおし"の噂を確かめる為に。小島の近くには、竜宮と呼ばれる海淵があり、その海淵で命を落とすと、もう一度赤子として生まれてくることができるという、全く同じ姿で。ギンコが宿を借りた家に住む澪の娘イサナも、澪の母であるマナの"生みなおし"だと。どうやら竜宮に住う蟲の営みがもたらすもののようだ。人を胚の状態へと戻す、いわばその人の生きた時間を喰らう蟲。
失った澪は悩む。娘が娘と思えないと。満月の夜にアクシデントが起こり、ギンコは竜宮に引きずり込まれる。死を覚悟したギンコの脳裏に巡る思い。
愛しい者を
取り戻せる島
望めば永久に
別れずにすむ島……
ならば ここは
まさしく楽土だ
……だが――
……このまま助かったギンコは、ただ、その島を去っていく。そして、生みなおしを是としないイサナに、澪は微笑む。
こいつに喰われれば
俺も 胚にまで
戻してくれるのだろうか
全てが始まる その前まで
……ああ
そりゃあ
たいそう悪い
冗談だ
母さんと おんなじだこの島ではこれからも"生みなおし"は続けられていく。"生みなおし"を選ぶもの、選ばないものが共存しながら――
さすが あんたは
あたしの 子だ――――
いずれ訪れるよく似た世界。私はギンコの立場に共感する。